nico先生は、陽当たりの良い海辺の診療所で、人々が元気で過ごせるように願いながら、日々診療にあたっています。そんなかたわら、時々ぼんやりしながら、いろいろなことを思うのでした。
こないだ
今年初めて 一粒だけ食べた
そう思っていたら
いつのまにやら どこへやら
ああ あの一粒が
今年の最後
あのとき
もっとちぎればよかったな
朝霜の空き地に
誰が植えたか
ちらりほらり
よくよく見ていて 気がついた
ほかのと違って
小さく 目立たない
だから
存在感は 抜群だ
でも 鼻先の風は
昨日よりも キンとくる
まだまだだと思ってた
じっと耐えるだけじゃないから
知っているんだろうな
咲く時を
山で コーヒーを入れてみた
澄んだ空気の中で 一杯口に運ぶ
少し離れたところに
白く輝く何かに気づく
カップを持ったまま近づいてみる
朝露に濡れた翅が きらきらと
ふうっ と一息こぼれる
片付けようとふと見たテーブル
黒いマントを着た
口を開けた姿にぎょっとする
秋の日の夕暮れに
とうとう現れた!
そんなドキドキを
大切にしたい
今年も 口を開いて
こぼれる種
一つ一つは ガーネット
眺めた後に 口に含み
感じる甘酸っぱさは
この季節の 記憶になる